雲に住むクラゲのノート

すごくたまに書いてしまう作文

架空のマイキャンピングカー(第二話)

「出発! マイキャンピングカー」


 やっぱり新型車は気分がいい。
 赤いスタートボタンを押し込むと「キュキュキュ」とエンジンが目を覚まし軽快な鼓動を始める。まず、単純にこれが楽しい。小さな子供がボタンを押すのと一緒だ。今日は、これから古波(こなみ)さんを拾(ひろ)って一緒にオートキャンプ場に行く予定だ。古波さんはこの自作キャンピングカー製作の中心となってくれた友人である。

 走り出して20分後、待ち合わせ場所のコンビニで古波さんを拾って次は買い物へ向かう。この一週間でマニュアルギアにも慣れ、新型車の進化をダイレクトに体感できて楽しい。この車はこれまでに乗ったディーゼル車とは全く別物で、骨太な出力と機敏さを持ち合わせている。実はそれもそのはず、このキャンピングカーのベース車はフルモデルチェンジしたばかりのマスダ「コンボ」バンなのだ。

 全世界を驚愕(きょうがく)させた2010年の発表以降も常に高い評価を得ているブルー・アクセル・テクノロジーが、ついに商用車にも広がり新型「コンボ」バンの誕生となった。他に類を見ない発想で独自の技術を磨き、大胆かつ繊細な戦略を展開する自動車メーカー・マスダを見ていると、その誕生の地で、かつて世にその名を轟(とどろ)かせた戦国武将毛利(もうり)氏の躍進を連想せずにはいられない。

 ちょっと話が大きくなってしまったが自動車オンチの私がこんな風に変わってしまったのは、助手席で穏(おだ)やかに微笑(ほほえ)んでいる古波さんの影響だ。いや、正確には古波さん自身は微笑んでいないのだが、もともとの顔のつくりが微笑んでいるようなお顔なのだ。小柄で丸顔に温厚な人柄も相まってみんなから慕われている。

 余談だが古波さんと知り合ってしばらく経った頃、ふと、私はある事に気付いた。古波さんは「リアルお地蔵さま」なのだ。

 今日、古波さんはお洒落な紺のコーデュロイ・ハンチングを被っている。そしてやっぱり、ハンチングを被ったお地蔵さまに見えてしまう。

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この作品はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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