雲に住むクラゲのノート

すごくたまに書いてしまう作文

架空のマイキャンピングカー(第一話)

「旅する車」

 待ちに待った電話があった。
 自動車整備工場を経営している友人、古波(こなみ)さんから私のキャンピングカーの全手続きが完了したとの連絡だった。この車は約1年をかけて自分たちで作ったバンコン・キャンパーだ。

 (「バンコンバージョン」通称「バンコン」。箱型のワンボックスカーや背高乗用車であるミニバンをベースにしたキャンピングカーのこと)

 苦労もあったが楽しかった製作風景のあれこれが思い起こされ、あらためて仲間たちの優しさに気付く。感謝の気持ちを言葉にしたら、早くも旅への期待が膨らみ始めた。


 ソファーに寝転がってしばらく目を閉じていた。次第に気持ちが落ち着き静まったころ、プカリと小さな記憶が浮かんできた。何十年も前のささやかな記憶だ。

 小学生の頃よく絵を描いた。ある日、設計のまねごとをした。

 横から見たワンボックスカーをイメージしてノートに長方形とタイヤ2個を描く。そしてハンドルと運転席とペダルを描くと急に車らしくなった。あとは後ろの大きな荷室にキッチンやテーブル、椅子などを描き込めば「旅する車」になるはずだ。

 イメージを頼りに納得いかないところは何度も描き直す。そのうち消しゴムで紙は荒れるし車体は継ぎはぎになっていくが、もうどうでもいい。そうして、かなりの時間をかけて設計図らしきものを描き上げた。

 設計者の仕事はこれで終わりだ。しかし、この車で旅する者としてはまだ重要な仕事が残っている。

 食料の積み込みだ。
 空いているスペースいっぱいにインスタントラーメンを描き込む。これで完成だ。少年であった私はこの旅する車と一緒にどこにでも行ける気がした。

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このは作品はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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